アメリカ郊外に暮らすごく普通の一般家庭にUFOで転がり込んできたのは、なんと遠い星から地球に避難してきた異星人だった!?全身毛むくじゃらで口が達者、物は作るよりも壊す方が得意。そんなアルフとの共同生活が平凡なものになるはずもなく…。ターナー家の人々と愛すべき居候とのドタバタ劇を描いたホームコメディ『アルフ』。第一話から心を鷲掴みにされた筆者が、本作の魅力をご紹介します!
※ドラマ第1話「エイリアンがやってきた」の内容に触れています!
1986年から1990年にかけて、米NBCにて放送されたホームコメディドラマ『アルフ』。日本でも1989年にNHKで、そして1991年には当時の教育テレビ(現在のEテレ)で放送されたことがありましたので、「本作を知っているよ」という方も多いのではないでしょうか?
主人公アルフは、体長約1メートルの毛むくじゃらの異星人。故郷の星メルマックが核戦争に突入し、このままでは滅亡待ったなしという危機的状況から、命からがらUFOで逃げ出してきた…という、実はなかなかに苦労の人(?)なのです。ちなみに「アルフ」とは、不時着したUFOの中で気を失っている彼を見つけたウィリー・ターナーが、「Alien Life Form(地球外生命体)」の頭文字からとって名付けたもの。
裏庭のガレージに文字通りUFOで転がり込んできたアルフに、ごく普通に暮らしていただけのターナー家の皆さんはもうパニック寸前…!
…とはなりません。ほかのSF作品だともうちょっと地球外から来た存在に対して拒否反応が出そうなものですが、皆さん意外にも適応能力が高いタイプの地球人でした。
絵に描いたような一般家庭のターナーさん家に、まるでもともと居たかのようにしれっと馴染むアルフ。とはいえ、彼は遠い宇宙の果てからやってきたエイリアン。小粋に会話を交わすことができるからといって油断は禁物です。持ち合わせている常識も、感覚も、食べ物の好み一つとっても、時には認識のすり合わせが必要な存在なのです。だってもしかしたら、故郷の星ではおやつに猫を食べていたかもしれないのですから…。
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マペットと生身の人間が織りなすホームコメディドラマ…とはいえ、可愛い毛むくじゃらのエイリアンが出てくる子供向けの作品だと侮ってはいけません。子供たちが無邪気に笑えるハートフルなトンデモ展開でありながら、合間に挟まるアルフと家族の会話には、大人も思わずニヤリとさせられるちょっと風刺の効いたシニカルな笑いもあり、文字通り大人から子供まで、一緒に楽しめる作品となっています。
そんな『アルフ』。放送開始した翌年の1987年の「ピープルズ・チョイス・アワード(People's Choice Awards)」では、見事「最も好きな新作コメディ番組」に選出!さらにその翌年には、子供たちからの投票で選ばれた番組を決める「キッズ・チョイス・アワード(Kids' Choice Awards)でも「最も好きなテレビ番組」に選ばれています!
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そんなアメリカ中、そして世界中の子供たちから愛されるキャラクターとなったアルフ。実は、二人の人物によって、彼に命が吹き込まれていたことをご存知でしたか?
一人は、本作の制作や脚本にも携わり、アルフの声や動きも担当したクリエイターのポール・フスコ。そしてもう一人は、立って歩いたり歌ったり、踊ったり、アクロバティックに動くアルフを演じた、俳優兼スタントマンのミシュ・メシャロスです。
なんで二人?と不思議に思うかもしれませんが、『アルフ』のオープニングを見た瞬間からこの疑問は間違いなく払拭されるハズ。
アルフが話すときの仕草や瞬き、耳の動き一つとっても、非常にリアルで生き生きとしていて、筆者も最初は当然マペットなんだろうな、と思ったのですが。オープニングのシーンでは、アルフがめちゃめちゃ普通に歩いているんですよね。家じゅうを歩き回って、家族とハグをかわして、時には歌ったり、踊ったり、ピアノまで弾けちゃいます。つまりは、シーンによってカメラワークを変え、二人の人物によって演じ分けが行われていたということなのだと思います。すごすぎる…!
もちろん、本作を楽しむときにはこんな細かいところに気が付かなくても全く問題ないのですが、せっかくなので画面の中でアルフがまるで本当に生きているかのように感じられるのは、二人の人物が温かい命を吹き込んでくれたから、ということだけでも知っていただけたら嬉しいです。
ちなみに、アルフの声を演じたポール・フスコと共に本作の制作の中核を担ったクリエイターのトム・パチェットは、70~80年代にかけて数多くの人気シットコムを手掛けた実績があり、『マペットの大冒険/宝石泥棒を捕まえろ!』(1981)や、『マペットめざせブロードウェイ』(1984)にも脚本家として参加しています。
『アルフ』の魅力の一つに、ウィットに富んだ会話の面白さがありますが、ここで一つ例を挙げてみたいと思います。
「これはジグソーパズルだ」
「これ壊れてるよ」
「そこがポイントなんだアルフ。君が元通りにするんだよ」
「なんで?俺は壊してないのに」
はい。もう面白いですね。こんな10秒ぐらいの会話一つひとつが、絶妙な塩加減で、笑いを誘います。ちょっと笑いがこぼれる、という感じなんですがそれがいつの間にかクセになるハズです。
『アルフ』の日本上陸は1989年。1994年までの間に全100話が放送されました。当時すでに観ていたよという方も多いかもしれませんが、日本語吹き替えを担当されていた方々が、今見るとびっくりするほどレジェンドだらけです。
主人公アルフを演じたのは、現在も数々のテレビ番組でご活躍中の所ジョージさん。『トイ・ストーリー』シリーズのバズ・ライトイヤー役をはじめ、声優としても多くの作品でそのお声を拝聴しますね。正直な話、『トイ・ストーリー』に育てられたと言っても過言ではない幼少期を過ごした筆者には、アルフの声がこの方だという情報をゲットした時点で「観ない」という選択肢はありませんでした。
ターナー家のパパ、ウィリー・ターナーを演じるのは小松政夫さん。70年代にお茶の間を大いに盛り上げたコメディアンであり、その後は俳優としても幅広いご活躍をされた方で、筆者は時代劇『陽炎の辻』シリーズで小松さんのことを知りました。2020年に惜しまれながらもお亡くなりになってしまったのですが、本作『アルフ』では、異星人アルフに昼夜振り回されながらも彼のことを憎めない、愛情深いパパさんを演じる小松さんのお声を楽しむことができますよ。
ターナー家のママ、ケートを演じたのは、『ベルサイユのばら』や『キューティーハニー』、『アルプスの少女ハイジ』のクララ役など、数々の名作に数多く出演されている吉田理保子さん。難しいお年頃の娘リンを演じたのは、『サクラ大戦』や『機動戦士Zガンダム』のエマ・シーン役で知られる岡本麻弥さん。そして、アルフと兄弟のように仲がいい息子ブライアン役には、『ロミオの青い空』の主人公ロミオ役や、『新機動戦記ガンダムW』のカトル・ラバーバ・ウィナー役を演じた折笠愛さんが吹替えを担当されています。豪華ですね…!
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実は本作『アルフ』は、アメリカではアニメ版も放送されていました!
その名も『ALF: The Animated Series(原題)』。1987年から1989年にかけて、米NBCで土曜日の30分アニメ番組として全26話が放送されました。
故郷の星メルマックでのアルフの日々を描いたアニメシリーズで、アルフの家族シャムウェイ家の面々やメルマック市民のキャラクターが数多く登場します。ちなみに「アルフ」という名前は先にもご紹介した通り、一家のパパ、ウィリーが思いつきで名付けた地球での呼び名で、毛むくじゃらの彼の本名はゴードン・シャムウェイです。アニメ版のアルフの声も、ドラマ版と同様にポール・フスコが演じていますよ。
ドラマ本編ではすでに壊滅してしまった(重い)メルマックでの暮らしがどんな感じだったのかがよく分かるストーリーとなっています。
このアニメも人気を博したようで、1988年からは、アニメの登場人物たちがおとぎ話の住人の役に扮して、『ロビンフッド』や『眠れる森の美女』といった有名な童話のパロディを描いたスピンオフシリーズ『ALF Tales(原題)』の放送もスタートしました。アニメ版のオープニングもかなり秀逸ですので、気になる方はちょっと検索してみてください。普通に歌が上手すぎます。
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※↑上のシーンはドラマ版『アルフ』のワンシーンです。
ある日唐突にごく一般家庭のガレージに不時着したUFO。宇宙人アルフの登場は、絵に描いたような中流家庭のターナー家に瞬く間に変化をもたらしていきます。毛むくじゃらで、食いしん坊で、ひょうきんなお調子者の彼ですが、トラブルばかりというわけではなく、実は物事をいつでも正面から見つめています。16歳の娘は難しい年頃だから…とやや諦めムードのパパさんに、「ちゃんと娘の話を聞いてんの?」とズバッと切り込むことも。
地球人の私たちがいろいろと忙しくしている中で「そういうものだから…」と割り切ろうとしてきた物事一つひとつを、アルフは丁寧に拾い上げて、問題提起という名の下にひっかきまわしてくれます。そうしてアルフが散らかした後を片付けていると、アルフが来る前よりも物事がきちんとあるべき形に収まっている…というホームコメディに私たちが求めているものがすべてここに詰まっています。とはいえ、油断しているとすぐに猫ちゃんを食べたい衝動に駆られていたり(メルマックでは普通に猫を食べていた模様)、食費がかさむと言われればお金を稼ぐためによくわからん化粧品商材を大量に自宅に届けさせたりするのでターナー家の人々はアルフに目を光らせておかなければならないのですが(笑)。
とはいえ、アルフもいつでも陽気なわけではありません。忘れてはならないのが、彼は故郷の星を核戦争で失い、その身一つでUFOに乗り込んでこんな遠い宇宙の果ての星に来ざるを得なかったという身の上の人物だということです。
第一話の最後では、彼が真っ暗なガレージの椅子に座って、誰もいない宇宙に向かって無線機で語り掛けるシーンがあります。このドラマは1980年代の作品ですが、そこから約30年経った現在でもなお、地球の人々はこの星の外に、交流できる相手を見つけることができていません。SFという作品は宇宙や技術というものに対する夢に溢れていて、いつでも私たちを楽しませてくれますが、地球の外にいる生命体、というものに関しては、未だにSF作品の中だけでしか見ることが適いません。地球にいる私たちは、もうその環境に慣れきっていますが、もし地球外生命体が本当にいたとして、不運にも地球にやってきてしまったとしたら、その孤独や絶望は想像も絶するものなのではないでしょうか。
少なくともこの地球にいる限りにおいては、よその惑星にいる誰かと連絡をとるなんて夢のまた夢なんですから。
初めから何も知らなければそこまで孤独には感じないでしょう。寂しくはありますが、ずっとそれが当たり前でしたから。でも、この星の外のどこかに、自分の家族がいるかもしれないと思いながら、切れた電話線をずっと見つめるような日々を過ごすことを想像してみると…、それはきっと、途方もない孤独感です。
そんなアルフですが、そのシーンの最後では、「近くにきたら寄ってくれ。ここの家族を紹介するから」と通信を締めくくり、地球で新たに自分を迎えてくれた家族とのハグで第一話は幕を閉じます。寂しさをごまかしたりせず、それでも前向きに現状を受け入れようとするアルフが抱きしめられているシーンで、筆者はすっかりこの作品のことが好きになってしまいました。きっと、かつてアメリカや日本、世界中の人々がこのドラマの虜になったように、放送から約30年がたった今でも色褪せない魅力があふれている作品だと思います。
今回は、1980年代の大ヒットホームコメディドラマ『アルフ』の魅力を語りました。
ぜひ、「すでに知っていたよ」という方も、「初めて聞いた!」という方も、本作に興味を持っていただけたら嬉しいです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
© Warner Bros. Entertainment, Inc.
(ライター:滝脇 まる(うりまる))