2024/02/28

【サッカー知識なくても大丈夫!】『ラス・ブラバスFC~弱小女子サッカーチームの奮闘記』見どころ紹介

破産、スキャンダル、おまけに心臓病まで抱えてお先真っ暗の元サッカー選手に唯一残された再起への道は、かつて自分が捨てた故郷の弱小女子サッカーチームを1部リーグにまで押し上げることだった⁉熱意はあるが技術がない女の子たちと、技術はあっても傲慢ちきで酒浸りの新監督は果たして協力できるのか?一話であっという間に心をつかまれた筆者が、本作の魅力をご紹介します!

はじめに(第一話「オフサイド」あらすじ)

いくつもの強豪チームで活躍し優勝カップを持ち帰り、世界最高のサッカー選手に名を連ねたロベルト・カサス。しかし、栄光の日々は突然の心臓発作とともに終わりを迎えます。選手生命を絶たれたロベルトはすっかり自暴自棄に。街に出ては一般人とトラブルを起こし、最悪なゲストとして他人のパーティーをぶち壊し、大喜びのパパラッチによってその醜態が世に晒されるという悪循環に陥ってしまいます。

破産に加えて、脱税容疑までかけられてしまったロベルトは、一枚の手紙を手に生まれ故郷のメキシコの小さな町プラヤ・アンヘルに飛ぶことに。有名人の凱旋に地元からの温かい歓迎が……あるわけもなく、住民は人気絶頂のタイミングでスペイン代表になることを選んだロベルトを「裏切り者」と罵り、空港で行き会ったホームレスの老女からは呪いをかけられる始末。さっさとスペインにとんぼ返りしようとするロベルトでしたが、帰れば刑務所が待っているとあってはメキシコを離れることはできません。

最後の頼みの綱である大富豪の大叔父は、十数年ぶりに自分の前に立った唯一の親族を前に感動の再会をするでもなく、取引を切り出しました。「地元のサッカーチームを1部リーグに昇格させたら、お前の借金を肩代わりしてやる」と言われたロベルトに選択の余地はありません。

かつてロベルトのチームメイトで、今は漁師をやりつつそのサッカーチーム「ラス・ブラバス」の監督を務めているセバスチャンとともにグラウンドに向かったカサスを待っていたのは、チームのユニホームを身にまとった少女たちでした。その光景を見て「女子サッカーはサッカーじゃない」「女は台所に立っていればいい」なんて平然と言い放つ男ロベルトが、果たして彼女たちを無事に1部リーグに昇格させることができるのでしょうか……?

【話の展開が気になりすぎる、予想通りにいかないストーリー】

「どん底まで行ってしまえばあとは這い上がるだけ」なんてセリフを時々耳にしますが、本作の主人公ロベルト・カサスはまさにどん底に落ちるところからスタートします。彼がひとたびボールを蹴ればたちまちスタジアムが熱狂!次から次へと名門チームから熱烈なスカウトがかかり、世界各国ありとあらゆる企業の広告に起用され巨万の富を稼いだのも今や過去のこと。

サッカー選手としてピッチに立つことが叶わなくなり、ロベルトは昼夜問わず酒に溺れては、あちこちでトラブルを起こすように。そんな姿をゴシップ誌に載せられてしまっては、もはやまともな仕事のオファーが来ることもありません。そうこうしているうちに破産してしまい、遠い昔に捨ててしまった故郷に逃げることに……と、かなり壮絶な転落人生がドラマの冒頭でさくっと描かれます。その後は舞台をメキシコに移し、ロベルトは自分の生まれ故郷の弱小サッカーチームをなんとかして1部リーグに押し上げるべく奮闘するのですが、ここもまた前途多難なんですね。

そもそもロベルトは、このプラヤ・アンヘルという町の住民、そしてほかの多くのメキシコ国民にとっては、メキシコよりもスペインを選んだ「裏切り者」という印象が強すぎるのです。チームの活動に必要不可欠な地元住民からの好感度はマイナスからのスタート……しかし、それ以上にもっと大きな問題があります。

それは、ロベルト本人にやる気がないということです。「え、どういうこと?」と思いますよね。筆者は思いました。なぜなら、ロベルトにとってこれは千載一遇のチャンスなわけです。世界を舞台に戦ってきたサッカー選手としての己の経験や技術を少女たちに教え、チームを1部リーグにまで昇格させる。そうすることで彼はスペインに残してきた自分の多額の借金を一気に解決できます。さらには心臓病という不運に見舞われて選手生命を絶たれた無念を、少女たちの成長を通して少しでも晴らすことができるかもしれないのですから。

しかし、ロベルトはダメな男でした。そんな感動の復活劇には興味なしといわんばかりに、彼は朝の11時に起床という大寝坊をかまし、ビール瓶片手にサッカー場に現れ、ホイッスルと怒鳴り声でもって少女たちをせっつくしかしません。そんな有様で観察眼の鋭い少女たちからの尊敬を得られるわけもなく、着任早々に練習試合をあわやボイコットされるという散々なスタートを切るわけです。

「なんでお前が一番やる気ないんだよ」と突っ込まずにはいられないのですが、彼は腐っても元一流サッカー選手。彼が本気を出して指導をし、少女たちともっと理解しあえた時にはきっと素晴らしいチームになるはずです。「女子サッカーはサッカーじゃない」とかぶつぶつ言ってる場合じゃないのです。とにかく目も当てられないほどの転落ぶりを序盤から見せつけてくるので、「一体ここからどう話を上向かせるんだろう……?」と思わず前のめりになってドラマに夢中になってしまうハズです。

【近年まれにみる謙虚じゃない主人公ロベルト・カサス】

本作の主人公ロベルト・カサスを演じるのは、マウリシオ・オフマン。アクションチャンネルで放送中の『R 運命の文字~その男、逃亡者バロン』でも主演を務めていますので、ピンとくる方も多いのではないでしょうか。ヒゲがないと結構印象が変わりますね。本作でもやけっぱちを起こした結果とんでもないことになってしまった男を演じています。ほかにもNetflix配信のドラマ『明日はまたメリー・クリスマス』(2022)や『この子をよろしく~突然⁉育児トライアル~』(2020)にも出演していますね。

非常に幅広い役柄で、ジャンル問わずさまざまな作品で活躍しているマウリシオ・オフマンですが、今作のロベルト・カサス役もまた非常に印象的です。ここまでお読みいただいた方ならうっすら伝わっていただけたかと思いますが、残念ながら序盤の彼に良いところはありません。苦境に立たされている割にはかなり傲慢で、恩人に傍若無人なふるまいをしては知らん顔。「いやなやつ」と辞書で引いたらそこに顔写真が載ってるんじゃないかというぐらいに、ダメな感じです。

その分、ロベルトの内面の変化が少しずつ描かれてくると、物語の進展を感じてより楽しめるはずです。個人的には、これほど変化を待ち望みながら作品を鑑賞することになった主人公ははじめてでした。

【このドラマの聖人枠】セバスチャンについてもう少し語りたい

このドラマでもう一人、非常に重要な人物だと(個人的に)感じているキャラクターがいます。それは、ロベルトの元チームメイト、セバスチャンです(画像左)。普段は漁師として生計を立てながら、地元の女子サッカーチームの監督も務めている男なのですが、彼がなんというか、めっちゃいい奴なのです。10人に聞いたら9人はカサスのことを「裏切り者」と答えるような小さな町で、ロベルトをハグとともに歓迎してくれた貴重な1人であり、ロベルトの大叔父さんに口利きをしてくれたのも彼です。しかも、(性格的にはロベルトといい勝負な)ろくでなしの大叔父さんの一声で、自分が監督を務める大事なチームをロベルトが仕切ることになっても嫌な顔一つせずに、共同監督になることを受け入れます。

さすがにロベルトがチームの少女たちをこき下ろしたときには言い返しますが、少女たちがロベルトに反発したときには彼のことも庇います。とにかく少女たちを励まし、元気づけて成長を促すセバスチャンの方針は、当然ながら実力主義のロベルトの方針とは合わないわけですが、それでもセバスチャンはロベルトのことを見限らずに、チームのためにできることを模索していきます。

序盤のロベルトがなかなかにひどいキャラクターとして描かれているから、ということもあるのですが、セバスチャンはまるで聖人のようなのです。地元に帰ってきたロベルトが金に困っていることを知ると、漁業で稼いだ自分の蓄えを渡そうとするほどのセバスチャンですが、世界的に有名な選手になる前のカサスを知る数少ない人間であり、それゆえか、彼はロベルトに対して非常に自然体です。ギラギラしたかつての輝きを失ったロベルトと、素朴なセバスチャンの不思議な友情関係も本作の見どころの一つです。

そんなセバスチャンを演じるのは、マウリシオ・バリエントス。2000年代からメキシコのテレビシリーズや映画で活躍している俳優で、2016年公開の映画『リベンジ・ファイト 相棒は天才ハッカー⁉』にも出演していますね。2022年からは、メキシコのリアリティー・ショー『La Noche Del Diablito(原題)』の司会を務めています。カサス役のマウリシオ・オフマンとは、本作以外でも多くの作品で共演しているようです。

最後に

ここまでお読みいただきありがとうございます!ストーリーとしては、世界の頂点から転がり落ちた男が、再起をかけて弱小女子サッカーチームの監督として再び一流を目指すという王道の作品なのですが、主人公のクセがかなり強いため、観ている側としてはいろんな意味で予想を裏切る展開が続くかと思います。サッカーを題材にしたドラマではありますが、知識に不安がある方でも全く問題なく楽しめるはずです。

はじめのうちは女子サッカーに否定的だったカサスが、チームの少女たちそれぞれが抱える事情や熱意を知るうちにその考えを改めていくストーリーも、女子スポーツが盛んになった現代だからこそ改めて刺さると思います。サッカー好きな方はもちろん、どん底から時間をかけて這い上がる男の物語が好きな方にもおすすめできる作品です。気になる方はぜひチェックしてみてください!

(文:うりまる)

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ラス・ブラバスFC~弱小女子サッカーチームの奮闘記|アクションチャンネル

うりまる
2017年ごろから海外ドラマ・映画について執筆中。ミステリー作品ならなんでも好きですが、特にまったりとした(COZYな)ミステリーが好きです。